「ぜんそく」とは、どんな病気?
- 2022.11.30
Q1.喘息とは、どんな病気?
喘息とは、空気の通り道である気道が炎症により狭くなる病気です。咳や痰、息苦しさ、ぜんめい(喘鳴)など、様々な症状を起こします。ぜんめい(喘鳴)とは、喘息の特徴的な症状で、呼吸する時にゼーゼー・ヒューヒューしたりすることを言います。
喘息は、正式には「気管支喘息」と呼ばれ、気管支の病気です。呼吸をする時の空気の通り道を気道と言いますが、その主な場所が気管支です。呼吸した空気は、口や鼻から入り、のどを通り、気管に入ります。気管は10cmくらいの長さで、ちょうど喉から胸の真ん中あたりに位置しています。気管は、左右の気管支に分かれ、気管支は、その後22回ほど、どんどん細かく枝分かれしながら、最終的には肺に到達します。このように、気道の主な場所が気管支ということになります。気管支喘息の原因は、「気道の炎症」です。言い換えると、気管支が炎症を起こしている病気です。
炎症とは、外からの刺激に対する体の生理的な防御反応により起こります。体を守ろうとする反応ですが、それが行き過ぎた場合は、アレルギー反応となります。
わかりやすく説明しますと、気道は、本来なめらかできれいな状態ですが、アレルギー反応により炎症を起こすと、イガイガと荒れたような状態になります。炎症が起こると、気道が腫れてむくんだり、痰などの分泌物が増えたりして、気道が狭くなります。それに伴って、咳や痰が出たり、息苦しくなったり、さらに気道が狭くなると、笛のようにヒューヒュー、ゼーゼーと、ぜんめい(喘鳴)が起こるようになります。
また、炎症が起きている気道は、刺激に対して非常に敏感になっているため、正常な気道なら何ともない、わずかな刺激に対しても、すぐに反応してしまいます。喘息の発作は、気管支がけいれんするように、更にギューっと狭くなり、咳や息苦しさも悪化する状態です。
Q2.喘息の症状は?
喘息の主な症状には、先ほども出てきましたが、咳、痰、息苦しさ、ぜんめい(喘鳴)などがあります。他にも、胸の痛み、のどに感じる違和感、息を吸おうとしても空気が入ってこない感覚、息を吐けない感じなども、喘息の症状として出てくることがあります。重い喘息発作では、気道が非常に狭くなり、物理的に空気が通らない状態になりますので、強い呼吸困難を起こします。実際に、窒息と同じような状態ですので、適切な処置をしなければ、命にかかわる場合もあります。
喘息の症状は、変動性があり、ひどくなるときと落ち着くときがあります。1日あるいは1年のなかでも、症状が変わります。これは、症状のきっかけとなる刺激の原因物質が、常に一定ではなく、一日一日や季節によって多くなったり少なくなったりするためです。喘息の症状は、1日の時間帯では、夜間や早朝に出やすいとされています。また、季節の変わり目や、天気が悪いとき、気圧や気温差が激しいとき、疲れているとき、風邪を引いたとき、タバコの煙を吸ったとき、症状を引き起こすアレルゲンや刺激物質を吸い込んだときに、起こりやすいと言われています。
Q3.どうして喘息になるの?
喘息になりやすい性質のことをリスク因子と言います。喘息のリスク因子の中で、まず最も重要なのが、アレルギー体質です。喘息は、アレルギー疾患の一つで、特に子供や若い方の喘息は、アレルギー反応により引き起こされることが多いです。アレルギーとは違う炎症により起こる喘息もありますし、特に、高齢になるほど、アレルギーと関係のない喘息の割合が高くなります。アレルゲンとは、アレルギー反応を起こす原因物質ですが、喘息では、ダニ、カビ、ハウスダスト、花粉、ペットなどのアレルゲンが、強く関連していると言われています。
その他、喘息のなりやすさに関係しているリスク因子としては、家族に喘息がいるなどの遺伝的体質と、タバコが挙げられます。喘息や、その元となるアレルギー体質は、比較的遺伝しやすい病気です。タバコは、吸っている本人はもちろんですが、子供の頃の受動喫煙も、喘息のリスク因子となります。妊婦さんが喫煙すると、低出生体重児になりやすいのは有名ですが、喘息のリスクも高くなると言われています。妊娠中だけではなく、家族がタバコを吸っていると、受動喫煙により子供が喘息になりやすいとも言われています。喘息の患者さん自身にとっても、また家族である子供にとっても、タバコを吸わないことは非常に大切です。
他には、PM2.5、排気ガス、黄砂などの大気汚染、疲れなどの身体的ストレスや、心理的ストレス、月経や妊娠、肥満、運動、特定の物質を吸い込んだり、暴露され続けたりする職業、風邪や気管支炎などの呼吸器感染症なども、喘息と関係しているリスク因子です。
Q4.喘息患者さんは、どのくらい、いるの?
喘息患者さんは、2017年度の統計によりますと約110万人で、これは、日本人口のおよそ10%に近い人数です。喘息のような症状を持っている方は、日本人の10人に1人、喘息で医療機関にかかって治療を受けている方は、20人に1人程度と言われています。いずれにしても、呼吸器の病気の中では、最も身近な病気の一つではないでしょうか。
喘息の患者数は、ここ30年くらい大きくは変わっていません。ただ、入院する患者さんの割合を見ると、30年前の20.4%から、最近は3.8%と着実に減少しています。つまり、重症な患者さんは、だいぶ減ってきたことになります。
同様に、喘息で亡くなる患者数も減少してきました。1990年代の日本では、喘息によって年間5000人を超える死亡者を出していました。治療の進歩や医療機関を受診しやすい状況などにより、2016年には年間1500人程度まで死亡者を減らすことができました。その後は下げ止まりで、喘息の死亡者数は、年間1500人弱で横ばいとなっています。
諸外国と比較すると、日本の人口当たりの喘息死亡者数はまだまだ多いとされています。喘息死亡者数における65歳以上の高齢者が占める割合はかなり高く、1995年の79.4%から上昇し続け、現在は92.3%となっています。喘息で亡くなる患者さんのほとんどが高齢者であり、高齢者の喘息をしっかりと治療していくことが、非常に重要な時代となってきました。
喘息は、子供から高齢者まで、全ての年齢で発症すると言われています。喘息患者さんの人数は、小児で最も多く、成長とともに一旦減少しますが、40歳くらいから再び増加し、65歳以上の高齢者でも多くなります。性別でみると、子供では男性が多く、大人では女性に多くなる傾向があります。
小児ぜんそくは、2、3歳までに60~70%が、8歳までに80%が発症するとされています。その後、思春期になると症状が良くなり、大人の喘息に移行するのは約3割となります。症状が一旦良くなった小児ぜんそくの患者さんも、約3割が大人になってから再発するようです。大人になってはじめて症状が出た喘息患者さんの60%以上は、40代から60代に発症すると言われています。
Q5.喘息の診断は?
喘息の診断にとって最も重要なのは、問診、すなわち、診察の時に患者さんの症状をよく聞くことです。先ほど出てきたような特徴的な症状、息苦しさ、咳や痰、ゼーゼー・ヒューヒューなどのぜんめい(喘鳴)、夜や朝に咳込みやすい、咳で夜中に目が覚めてしまう、運動した後に息苦しい、食事中、笑った時、寒い時などに咳込みやすい、風邪をひくと咳が長引く、これらの症状から喘息を疑います。あとは、聴診器を使って呼吸音を聞くことも重要で、喘息に特徴的なぜんめい(喘鳴)があるかどうかがわかり、診断に非常に役立ちます。
医療機関を受診した際に、喘息を調べるために行う検査としては、まず一番使われているものが呼吸機能検査です。息を吸ったり吐いたりして、肺活量などを調べる検査ですが、喘息で見るのは1秒率と言う指標です。1秒率は、思い切り息を吸ってから、勢いよくフーッと息を吐いたとき、1秒間でどれくらい息を吐けるかを見ています。喘息では、炎症で気道が狭くなり、勢いよく息を吐くことができません。1秒率は、息を吐く勢いを示していますので、喘息患者さんでは、1秒率は低くなります。
もう一つ、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)の検査が最近普及してきています。これも息を吐く検査で、吐いた息の中の一酸化窒素の濃度を測定します。気道に炎症があるかどうかを調べる検査で、呼気の一酸化窒素の数値が高いほど、気管支に炎症があることを示しています。これら2つの検査は、息を吸ったり吐いたりして行う、比較的手軽にできる検査ですので、扱っている施設は多いと思います。その他の検査としては、モストグラフという機器を使用する広域周波オシレーション法や気道過敏性検査などがあります。モクトグラフは、専門の医療機関では活躍しています。気道過敏性検査は一部の専門施設でしか行われていません。
これらの呼吸器系の検査以外に、アレルギー体質があるかどうかを調べるために、アレルギー検査を追加することもあります。また、喘息と似たような症状を起こす、喘息以外の病気と区別するために、胸部レントゲン、必要であれば胸部CTなどの画像検査を行う場合もあります。
Q6.喘息と似ている病気は?
咳の原因となる病気について紹介します。
まずは、3週間以内におさまる咳であれば、その多くはウィルスや細菌感染によって気道に炎症が起こる病気が考えられます。風邪や気管支炎になり、咳が続く場合で、医学用語では「感染性咳嗽(がいそう)」と言います。
3週間以上止まらない咳の場合は、まずは喘息や咳喘息を考えます。その他の呼吸器疾患としては、COPD(慢性閉塞性肺疾患)すなわち肺気腫の可能性も考慮します。COPDは、症状も治療も喘息とよく似ている病気です。肺炎や肺がんなどの病気の可能性も常に考えながら、咳の原因を探っていきます。
また、気管支や肺などの呼吸器の病気以外でも、咳が出ることもあります。薬の副作用で空咳が出ることもあり、ある種の血圧を下げる薬で出やすいと言われています。後鼻漏と言って鼻水が後ろの気道にたれ込み、咳や痰の原因になることもあります。逆流性食道炎でも、逆流した胃酸が気道にたれ込み、咳が出ると言われています。
喘息と同じように、アレルギーによる咳を起こす病気としては、咳喘息とアトピー咳嗽と呼ばれるものがあります。喘息、咳喘息、アトピー咳嗽は、親戚のような、非常に似通った病気で、呼吸器専門医でも区別や理解が難しいと言われています。
咳喘息は、慢性的に咳が続く病気の中で最も頻度が高く、耳にしたことがあるかもしれません。一言で言うと、喘息の一歩手前の病気ということになります。喘息との違いは、咳が主な症状であり、ぜんめい(喘鳴)がないという点になります。治療方法も喘息とほぼ同じです。一時的な喘息に近い状態で、早いと2ヶ月程度、通常は半年から1年ほどで治ることが多いです。咳喘息は無治療の場合には、30%程度が喘息になっていきます。きちんと治療することで、本物の喘息になるのをくい止めることができます。
アトピー咳嗽は、気道の蕁麻疹のような病気と言えます。気道の粘膜が、アレルギーでイガイガ・ヒリヒリして、咳が出やすい状態となります。治療では、アレルギーの薬が効くことが多いと言われています。
Q7.喘息の治療は?
喘息治療の目標は、症状がゼロで、健康な人と変わらない生活を送ることです。喘息の患者さん、特に長く喘息の症状を自覚していた患者さんは、症状が出るのは仕方のないことだと思っている方も多いです。現在では、喘息は、きちんと治療をすれば、症状が全くない状態で日常生活を快適に送ることができるようになっています。
健康な人と変わらない生活を送るために、仕事や学校、家事などを休まない、外出や運動ができる、夜間や早朝に症状が出ずによく眠れる、昼間の咳がない、発作のため病院を受診することがない、肺の機能が良い状態が続く、薬の副作用がない、これらの指標を達成することを目指して、喘息治療に取り組んでいきます。そのために必要なのは、治療により、気道の炎症を抑え続けることです。
治療の方法には、生活習慣と薬物療法があります。生活習慣としては、規則正しい生活や十分な睡眠は基本です。喘息の予防には、禁煙、アレルゲンを避ける、疲れをためない、ストレスを減らす、肥満であればダイエットをする、などが非常に効果的です。
薬物療法では、気道の炎症を抑える治療が中心となります。気道の炎症を抑える薬が、吸入ステロイド薬とロイコトリエン受容体拮抗薬です。この中でも、吸い込むタイプの薬である、吸入ステロイド薬が、最も重要で、喘息治療の基本となります。1990年代に吸入ステロイド薬が登場し、そのおかげで、喘息による死亡者を減らすことが出来たと言われています。前回も申し上げました通り、1990年代の日本では、年間5000人を超える喘息による死者を出していましたが、最近では年間1500人程度まで死者を減らすことができました。この30年間で、喘息治療が大きく進歩したのは、吸入ステロイド薬のおかげと言えます。
Q8.吸入ステロイド薬とは?
ステロイドは、もともと体の中にある副腎皮質ホルモンを科学的に合成したものです。炎症反応やアレルギー反応を抑えるため、様々な病気の治療に使われています。そのため、体内で色々な作用を発揮し効果も強いのですが、副作用が出てしまうこともあります。ステロイドと聞くと、何となく怖いというイメージを持っている方もいやっしゃいます。ただし、飲み薬や注射薬のステロイドと比較すると、吸入薬のステロイドは圧倒的に全身の副作用は少ないとされています。
吸入薬というのは、薬を口から吸い込んで、気管支や肺に作用させることができる薬です。喘息やCOPDなどに使われ、呼吸器の病気に特徴的な薬です。吸入薬は種類が多く、喘息に使用される吸入薬だけでも、20種類を越えます。デバイスと呼ばれる容器の中に薬が入っていますが、容器にも様々な種類があります。容器の形によって、薬の出てくる仕組みや、吸入する方法や回数などが、それぞれ異なっています。また、中身の吸入薬にも、色々な種類や量、組み合わせがあります。吸入薬の一番の特徴は、薬の使い方、吸い込み方により、効果が左右されてしまうことです。飲み薬は、薬を飲めば、確実に薬の効果は出てきます。しかし、吸入薬は、上手に吸わないと、薬がしっかりと体に入らないと効果が発揮されないことがあります。
自分に合う吸入薬を見つけることが、喘息治療にとって大事なポイントとなります。
吸入ステロイド薬は、気道に直接作用して、気道にだけ抗炎症作用を示すので、飲み薬や注射薬と比べて、非常に少ない量で効果を発揮することができます。注射薬は血液の中に直接薬を入れますし、飲み薬は胃から吸収されて血液の中に入り、全身をまわります。それに対して、気道に作用してから、吸収されて血液の中に入り、全身に到達する薬剤量は、ごく一部であり、わずかな量です。したがって、全身の副作用は出にくいと言われています。吸入ステロイド薬の主な副作用は、局所の副作用で、吸った薬が口や喉に残ってしまうと、口や喉の違和感を感じたり、声が枯れたり、口内炎ができたりすることがあります。これらの副作用は、お薬を吸入した後にうがいをすることで予防出来ることが多いです。
吸入ステロイド薬は、気道の炎症を抑え続け、症状が出ないように予防するために、毎日継続して使用することが大切です。
Q9.その他の治療薬は?
気道の炎症を抑えるもう一つの薬である、ロイコトリエン受容体拮抗薬は、アレルギーの薬の一つで、アレルギー性鼻炎などでも使われています。を抑える働きを持つ飲み薬です。吸入薬を使用するのが難しい小さな子供では、喘息治療の中心的な薬となっています。また、大人でもアレルギー体質のある喘息患者さんには、特に効果があると考えられています。吸入薬に追加する飲み薬としては、一番多く使われています。
これまで出てきた気道の炎症を抑える薬の他に、気道を拡げる治療薬があります。気管支拡張薬とも呼ばれるもので、長時間作用性β2刺激薬と長時間作用性抗コリン薬の2種類があります。これらの気管支拡張薬も吸入薬ですので、吸入ステロイド薬だけでは喘息がコントロールできない患者さんに対して、吸入ステロイド薬に追加して使用する薬となります。特に最近では、合剤と言って、1つの容器の中に、ステロイドと気管支拡張薬を組み合わせて入っているものが数多く開発され、吸入薬での喘息治療の選択肢が広がってきています。
喘息が急に悪化する発作時には、気道を素早く拡げる治療として、短時間作用性β2刺激薬という吸入薬が使われます。これは、一時的に気道を拡げて、咳や息苦しさを取り除く治療ですので、その場しのぎに過ぎません。
飲み薬や注射薬のステロイドも、症状悪化時に使われることがあります。飲み薬のステロイド薬は長期に使用すると、全身の副作用が問題となってきますので、短期間のみ使用するようにしています。
喘息の患者さんにとって、最もつらい症状は発作です。息苦しくて日常生活が送れない、咳込みで夜も眠れない状態になります。そのため発作を抑えることが喘息の主な治療であると勘違いしてしまいがちです。
発作止めのお薬で症状を抑えることも大事ですが、症状を抑えるだけのお薬は、一時的な治療薬ですので、喘息という氷山の一角を治療しているに過ぎません。喘息の原因は、気道の炎症であるため、炎症に対する根本的な治療を行わなければ、発作を繰り返し、さらに苦しい症状を招くことになります。また、発作を繰り返すことで、気道リモデリグを起こすことが問題だとされています。気道リモデリングは、気道の壁の中にある「気道平滑筋」という筋肉が厚くなってしまった状態です。気道リモデリングが起こると、気道は硬くなり、しだいに喘息が治りにくくなっていくと言われています。一度リモデリングを起こしてしまった気道は、元に戻ることは難しいとされていますので、日々地道に、根本的な治療を続けることが、とても重要になってきます。
吸入薬を中心とした喘息治療を行っても、症状がおさえられない重症の喘息患者さんには、抗体療法と呼ばれる生物学的製剤が使われることがあります。最初の生物学的製剤が登場したのは、2009年ですが、ここ数年でよく使われるようになった薬です。現在、喘息に対して使用できる生物学的製剤は4種類で、いずれも注射薬になります。これらの生物学的製剤を使った抗体療法は、細胞レベルで喘息の炎症を抑える根本的な治療となります。そのため、効果は非常に高く、重症な喘息患者さんにとっては、画期的な薬となりました。喘息治療の歴史の中では、吸入ステロイド薬が大きな革命を起こしました。次の大きな進歩が、この生物学的製剤と言われています。ただし、生物学的製剤は、非常に効果な薬で、抗体療法の治療費は、1ヶ月あたり数万円から数十万円かかります。そのため、患者さんと十分に相談した上で、選択する治療法となります。
気管支サーモプラスティは、気管支熱形成術とも呼ばれる内視鏡治療です。2015年より保険診療で行われるようになった、重症喘息に対する薬以外の新しい治療方法です。
気管、気管支、肺などの呼吸器に使用する内視鏡を気管支鏡と言います。気管支鏡は、5mm程度の柔らかい管で、先端にカメラが付いており、気管支などをのぞき見る器械です。構造は胃カメラと同じですが、胃カメラに比べるとかなり細くなっています。気管支サーモプラスティは、気管支鏡を使って、気管支の壁を65℃で10秒ほど温める治療法です。重症喘息では、気道モデリングが起こり、気道平滑筋が厚くなっている話をしましたが、気管支の壁を温めることにより、厚くなった気道平滑筋の量を減らすことができます。気管支サーモプラスティの効果としては、治療1年後に、79%の患者さんは症状が良くなったと感じ、発作で救急外来を受診する回数も84%減らしたという報告があります。その効果は5年程度持続することがわかっています。ただ、一度にすべての気管支に熱形成術を行うことはできず、合計3回の入院が必要となり、1回の治療に約50万円かかります。気管支サーモプラスティは、日本で始まってまだ7年しか経っていないため、日本人における有効性や安全性は不明であり、その適応は慎重に検討する必要があります。
Q10.喘息の治療は、続けるの?
喘息は、完治するのは難しいですが、寛解と言って、薬を使わなくても症状がない状態を維持することはできます。喘息は、高血圧や糖尿病などと同じように慢性疾患に分類される病気です。慢性疾患とは、治療経過に長い時間がかかり、治療を続けながら徐々に寛解を目指すような病気です。一部の軽い喘息や小児喘息などでは、短期間で寛解することもあります。
喘息治療では、治療を強めることを「ステップアップ」、治療を弱めることを「ステップダウン」と呼びます。喘息症状が改善しなければ、治療薬を増やしたり、強化したりと、治療をステップアップすることになります。逆に、治療薬を減らしたり、中止したりするステップダウンは、より慎重にやるべきだと言われています。ガイドラインでは、3ヶ月以上症状が落ち着いていれば、治療のステップダウンができることになっています。そのため、通常は3~6ヶ月毎に治療を見直して、少しずつ薬を減らしていきます。それでも、喘息治療のステップダウンを開始してから、2年間で3人に1人くらいが再発すると言われています。また、喘息では、一旦寛解した場合でも、10年以上たって、突然再発することも珍しくはありません。したがって、喘息の治療は、ゆっくりと焦らず、調子の良い状態を維持するように、続けていきます。
喘息の治療では、「毎日きちんとお薬を服用することで、症状を予防する」ことが重要です。それは、例えるならば、虫歯を予防するために毎日歯を磨くのとおなじようなこと、とも言えます。健康な人と変わらない快適な日常生活を送るために、咳に邪魔されない良質な睡眠をとるために、発作を心配することなく色々なことにチャレンジするために、症状がなくても、治療を続けていくことが大切です。